大型放射光施設SPring-8で1年ぶりに実験してきました

東京大学工学部精密工学科/東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻 三村研究室

大型放射光施設SPring-8で1年ぶりに実験してきました

― 研究室の現状 ―

三村研博士1年の島村です。新型コロナウィルスの感染拡大に収束が見えない中、日々不安を感じながらお過ごしだと思います。大学も活動制限が続いていますが、三村・国枝研究室では現在大学で用いられている入構システムをいち早く独自に確立し、大学での研究環境を調えてきました。

といっても、登校を強制するものではありません。一人暮らし・実家住まいといった家庭事情で、同じ状況でも受け止め方が異なります。オンラインで完結しない実験等に関して、「必要ならば安心感を持って登校できる」ような仕組みづくりに研究室全体で配慮してきたつもりです。

― SPring-8での実験 ―

そうして大学で少しずつ実験を進めつつ、私は兵庫県の大型放射光施設SPring-8で自作X線集光素子のテストを行っています。何故この研究になったのか? それは後日出てくるかも。

そのため、大学の実験・シミュレーションはあくまで「準備」で、選考の結果半年に2回あれば嬉しいSPring-8での実験(ビームタイム)が「本番」になります。幸い夏以降にSPring-8での実験が解禁されたため、コロナ渦の合間を縫うように出張実験に行きました。

SPring-8は普段着で入れますが、とにかく大きい恒温室の役割も持ちます。施設が大きいので人はまばらですが、施設内は常時20度に保たれ、少し気圧を高くしています。換気良い。

東京都の喧騒やコロナ騒ぎとはうって変わって、朝は雲海に沈むSPring-8、昼は鹿の群れが草を食み、夜は満点の星空…。私は都会育ちなのでなかなか見ない光景です。すげえ。

午前7時、宿舎ベランダから見るSPring-8は雲に沈没
午前11時、日向で草を食む鹿の群れ

自作のX線集光素子ですが、私は長さ2 mmと8 mm長の集光鏡を直角に組み合わせて、縦方向と横方向に独立に集光するような光学素子を開発しています。このタイプでは世界最小の設計で、この集光鏡を設置するユニットも世界最小と自負しています。すげえ。

肝心の実験結果ですが、1勝1敗という感じです。ただ私は負けを認めないので、2勝です。すげえ。

真面目に行くと、集光実験は48時間続きます。とても一人では終えられないため、研究室の方々に手伝ってもらいながら、論文として発表したいデータを取ります。多くても半年に2回しかチャンスがないので、プレッシャーは大きいです。ただ、1回の集光実験で発表に値する結果が出る(はず)ので、なかなかすごいリターンだなと思います。他の人の集光実験に手伝いに行くこともあり、出張実験は研究室の一大イベントです。

自作のX線集光素子と集光ユニット。右下に15 cm定規がありますが、2Lペットボトルに15台ステージを詰め込んだ感じです。集光鏡とステージは「ウォ○リ○を探せ」状態。

― 研究に思うこと ―

SPring-8でも大学でも、アイデアを自分で実装していくため、常時考えます。何をするかの”what”と、どのように実現するかの”how“を自分で決断することが多く、リーダーとプレーヤーの双方をこなさなければなりません。私はテニスを続けているのですが、多くてもペアでしかコート上に立てないスポーツです。コーチングとプレーのどちらも磨かなければ強くなれない点で、私の研究はテニスに近い気がします。

本番の集光実験でも想定外の結果が得られることもあり、時間制限がある現場では俊敏に意思決定が求められます。そうした本番の選択肢を支えるのは、入念な大学での準備です。本番の日程は動かせないため、大学での研究・実験はいつも時間との勝負ですが、運動量が多い自分の性に合ったテーマを幸いにも続けられている気がします。 今年卒業の学部生や修士・博士課程の学生は厳しい状況にさらされているはずですが、発表をお聞きすると例年かそれ以上にしっかり進んでいて、適応力を見習いたくなります。様々な境遇で色々な心境の方がいると思いますが、体調にはくれぐれもお気をつけて、是非良いクリスマスと年末年始をお迎え下さい。

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